失敗して学ぶことができる臨床現場に近い経験をさせたいi-medical 国際医療看護福祉大学校 臨床工学技士科 学科長 塩田博幸先生

第8回目の「利用者の声」は、福島県郡山市に位置する、臨床工学技士、言語聴覚士、救急救命士、看護師、介護福祉士の国家資格取得を目指す総合医療専門学校である国際医療看護福祉大学校臨床工学技士科 学科長の塩田博幸先生です。

今回は、生体を利用した人工心肺装置や内視鏡を使用した手術のトレーニングを通して学生に学んでほしいこと、センター利用の感想などについて伺いました。

  • Q1. センターにトレーニングを依頼したきっかけはなんですか?

    臨床工学技士の養成校というのは、座学、演習、臨床実習、これがひとつの柱になっています。学内では、座学と学内の演習を並走して行っていますが、学内の演習と臨床実習は限りなく乖離(かいり)しています。
    演習は人で行うわけではないので失敗しても大丈夫ですが、臨床実習になると人の命に関わるので失敗はできません。
    全国的な養成校のほとんどは、学内の演習でトレーニングの準備段階までしかできません。そして、すぐに臨床実習になってしまいます。
    これが、1つのジレンマでした。そのため、なんとか臨床実習前に臨床実習に近いトレーニングができないかと思っていたんです

    臨床前に生体を使う実習を行うことができたら、直接自分たちで見ながら、触れながら、やりながら体感することができるので、臨床現場に近いことができます。 実際にその場に立つと緊張感も出ますし、すべてうまくいくわけでなく、いろいろな形で、臨床現場で同じような流れを作ってあげることができます。 生体を使う実習で実際に感じたことが、学生の未来への投資にできるのであればと考えて、センターの設備、環境でやってみようとなったことが経緯です。

  • Q2. センターの動物を使った実習は、他の養成校と差別化となるプログラムだと思いますが、学生が進路を決める選択のひとつになっているのでしょうか。

    オープンキャンパスの3分の1くらいは、センターの実習などの話をすると、
    「私はセンターの実習やりたいからオープンキャンパスに来ました」と言うんですよ。 他の大学や学校も考えましたが、そこではなく国際医療福祉大学校に決めた理由は、センターの実習があったからという声もありました。

    いろいろ理由はありますが、親御さんや兄弟に医療職がいると、「私たちは、何年病院で働いていても、生体を使った実習なんてできないんだから、国際医療福祉大学校に進学しないと一生体験できないよ」と言われてくる学生もいます。

  • Q3. 国際医療福祉大学校では、多職種連携という授業があると聞きましたが、どのようなものでしょうか。

    手術台に患者さんを乗せて、周りに多職種の職業を配置すると、職種によって見てる方向、考え方が違うので、一人の患者に対して、「こうやったほうが良いのではないか?」「ここは違う」などの対立がでてきます。いろいろな職種の立場で話し合いながら問題点をクリアして、自分の主張より相手の主張を聞いたうえで、患者さんにとって1番良いことを考えて進めていくということが、多職種連携です。

    多職種連携の授業で臨床シミュレーションで実施するので、学生のなかで、医師、看護師、臨床工学技師など、いろいろな職種を自分たちがひとつのパッケージとして作り上げます。
    たとえば、実習中に麻酔医は血圧コントロールしないといけないのですが、血圧低いから何とかしないと思っている最中に、医師が術野(手術中に見えてる場所)で心臓を持ってしまいました。血圧上げないといけないのにどうしょう(汗)となったとしても、術中に声を上げることができませんでした。
    実施後の反省会で、「実際に血圧下がっているので、ちょっと待ってください」と言えたら、生体に対してはどうだっただろうか?そこで声を上げるべきだったのではないか?と意見を交わすことができます。
    多職種連携という授業で生徒はとても成長すると考えています。

    センター:自分がやろうとしている臨床工学技士という立場を、他の職種の立場から見ることができるのは面白いです。俯瞰(ふかん)で見れるのはすごいですね。

    生体を使う実習は2年生で実施し、病院で臨床実習が終わると、また生体を使った実技発表をセンターで実施しています。
    実技発表会では、親御さんたちを招待して、生徒たちが生体を使用した実習と実際の病院の流れや患者の検査を実施して、その後どうするのかというシミュレーションを見せています。
    そうすることで、生徒が目指す臨床工学技士がさまざまな職種と関わり合いながら、どのようなことをやっているのかといった生徒の成長を見てほしくて招待していました。でも親御さんたちから見ると家庭で過ごす子供たちと、実技発表会で演じる子供たちのギャップが見れるらしく(笑)それも含めて、毎年のアンケートに好評を書いてくれる親御さんが多いです。

    センター:医師、看護師、臨床工学技士などの役割は生徒たちの希望をとっているんですか?

    全部自分たちで話し合って決めます。 3年生で座学が終了し、ある程度やりたい職種が出てくる中で、みんなで話し合って決めていきますが、練習の中でその職種に合わない生徒も出てきます。たとえば、じっくりとやると良い仕事をする生徒が、救命の職種になると、秒で動かないといけないので、それに追従できない場合もあります。その時には交換しますが、まずはやりたい職種をやってみようと伝えています。
    生体を使った実習や実技発表は、誰に何をやらせるというのは、教師は口を出さないことにしています。
    自分たちでやりたいと思ったら一生懸命やるでしょ?やらされると勉強しないでしょ?(笑)

  • Q4. 生体を使った実習で生徒に一番理解してほしいことはなんですか?

    1週間や1か月で上手くなることは、まずありえないです。いろいろなパターンを想定しながらやると、どうやったらよいかだんだん見えてきます。
    センターの実習で、一生懸命ブタの耳に針を刺す担当になって、毎日練習して、これだけ練習したから大丈夫だろうと思って、実際やってみたら全然刺さらない。ここが、勉強と実際の差なんです。
    要するに、知識とか、中途半端な技術で、実際にその仕事ができるわけではない、そういうのを分かってほしいですね。

    実際に病院では、毎日うまくいく訳がないんです。実際失敗するんですよ。失敗を人の命が消える前でなんとか止めて上げられたら、その失敗が次なる経験になって失敗しなくなっていきます。でも、結局この失敗って全員が起こしたくないでしょ。

    私たちがやりたいのは、実際に生体を使った実習で"失敗"を作ることなんです。例えば体外循環装置を使用していて、人工肺が固まってしまった場合は交換しなくてはいけません。生徒はあまりやったことがないので、交換するのが怖いんです。心臓止めると一緒ですからね。
    3分以内に交換して復活させないと、患者さんの脳がだめになってしまう。そんな時病院で初めてやるのではなく、センターでトライアルをした経験が、ものすごく現場で生きるんじゃないのかなと思います。 実際に病院では、人工心肺の練習はなく、患者さん相手に経験することが練習になってしまいます。現場に立つ前に練習できることは、患者さんにとっても、これから現場で働く生徒たちにとっても大切なことだと思っています。

  • Q5. 実際に生体で実習を行う前と後では、学生の意識は変わっているのでしょうか。

    生体を見たことがない、手術室に入ったことがないドキドキ感の中で行う初めての実習と、なんとなくこんな感じだったという経験をして手術室に入るのとは、経験を積むほど全然違います。そこで大失敗した生徒は、どうやったら上手くいくかをフォーカスするので失敗した原因がわかります。実習では説明だけではなく、自分たちの経験から、この時はこうやっていたという比較ができるので、実習するたびに変わってきているという現状です。

    センター:最初は緊張するでしょうね。

    最初のうちは全く分からない状況でやりますが、何年も実習を継続していると、2年生は実習が始まる前に3年生のところに行って、「私この担当なんですけど、どうやってやりました?」と聞きに行って、3年生から「ここで、俺も失敗したんだ。」など情報がいっぱい流れているので、だんだんドキドキ感がなくなってきていると感じます。もう少し活をいれて、ドキドキして眠れないくらいにしてあげないといけませんね(笑)

    センター:学年の垣根を超えて交流があるのはいいですね。反省会に参加しましたが、とても真剣に行っている姿が印象的でした。

    3年生は、臨床実習の反省会を行います。自分たちがどんな病院に行って、どのような実習行ったのかという反省会には、2年生は全員出席していますし、3年生が卒業する前には、実習ではどんなことするのかという他に、「あの病院の○○先生には気をつけろ」なども聞いています。(笑)

    あとは、センターで行う生体を使った実習について、次は自分たちが先輩になって聞かれる立場になるということが分かっているので、当日は、色々見て覚えておかないといけないと意識しているのはもちろんのこと、実習後の先輩に聞く質問は、メスの持ち方など細かく聞いているのは想像以上でした。
    そのようなことが循環して、学年の垣根を超えて一緒に検討しようという形ができあがってきたのだと思います。その学年だけではなく、次なる人、次なる人、そういったところにいろいろ波及するものが作れてきているのは確かです。

  • Q6. センターでの実習の経験は、生徒の就職後にも影響を受けていますか?

    さっきの話の様に、練習してもすぐには上手くいかないことを分かっている生徒は、就職しても現場で一生懸命働く子が多くて、色々な病院から求人のお願いをされることが増えてきました。

    生徒達には、どんなに良い点数を取っても、まだまだだという意識を持つように伝えています。就職しても、自分たちより下がいるから安心ではなく、上しか見なくていいって言ってるんです。 到達するところがずっと遠いので、1段2段上ったからってたかが知れてるだろうと。 私が言うのは、10年経ったら1回立ち止まって下を見て、やっとここまで来たって思う。そして、もう1回上見てみなさいと、まだ先は長いと思うから(笑) それが生涯続けていく臨床工学技士という職業なので、自分が満足するポイントは、多分辞めるところまで行っても満足できないと思うよと。でもそこまでは自分が伸びている、上に上がっている経過を作り上げなさいと。それがすべて患者さんのために繋がっていきます。

    生体を使った実習とその後の実技発表で、自分たちが目指さなければいけないことが、低い位置だけではなく、もっともっと高い位置にもっていくということが一つだと思います。 やっている効果は絶大です。

  • Q7. 医療機器やさまざまな技術の発展によって、臨床工学技士の役割はどんどん変化してきています。業務の拡大や変化もしていく中で、それを見通した対応として、どのようなことを学生に伝えているのでしょうか。 ​​

    医師の負担を減らすために、2021年臨床工学技士の業務範囲追加が認められました。それに伴って、「手術の器械出し」について実施可能ということになりました。 今まで臨床工学技士は器械出しをしたことがなかったのですが、今は、学生が器械出しできるよう学校で指導しているため、病院でもそのような学生を欲しいと言ってくれます。
    実際の練習で、「次にこの器具を使いますが、何で使うかわかりますか?」というところまで聞きながら実施しています。学生は手術の内容を理解することによって、次にこの器具を使うだろうと思って、言われる前に器械を出すことができるようになります。そうすることで病院でも欲しい人材の育成に繋がっていると思います。

    そして、この業務範囲の追加により臨床工学技士が内視鏡のカメラを持つことにもなりました。そのため指導をお願いしている先生には、全部説明しながらやってくださいとお願いしています。先生が実際にカメラの上の方を見せてほしいを言ったときに、その理由を全部説明してくれたらカメラを持っている臨床工学技士が、こういう意味で言っているんだと医師の気持ちになって画像を映せるようになります。それが医師にとって一番良いことだと思います。 だいぶこのような実習のかたちができ上がってきました。

    それはセンターが、こちらが無茶なことを言ってもやってくれるからです。(笑)

    たとえば、コロナの重傷者などで心臓と呼吸を補助するために使う体外式膜型人工肺であるECMO(エクモ)という機器がありますが、カテーテル検査を実施する台でECMOを造影してみたいなんてセンターに無理を言ったこともありました。このECMOの内部でどのような循環をしているのか、その流れを実際に見てみたかったからです。
    実際の病院で人に使用する場合は、安全な範囲の中でECMOを調整しなくてはいけませんが、生体を使った実習では細かい調整をしながら貴重なデータを収集することができました。それが今現場でものすごく役に立っています。

    センターで実施している実習では、毎年、毎年、フォーカスできるものがいっぱいあります。

    センター:先生が実習の形を作ることに取り組んでおられるので、それが波紋のように広がっていると感じました。 センターで学生の実習をやっていただけるのは、 私たち職員のスキルアップや経験の蓄積に大いに役立っていますし、実際の臨床の最前線を知ることができます。 そのような意味でもセンターの施設を提供することは、非常に大きい価値があるものだと考えています。私たちにとっても貴重な経験の場なので、できるだけ継続してやって欲しいと思っています。

  • Q8. 今回、有望開発案件集積事業によるトレーニング費用の負担軽減が得られたことは、センター利用の判断材料の一つになったのでしょうか。 ​​

    実際に、助成金があろうがなかろうが、私たちは実習を行うと思います。助成金がない場合は、学校も負担するし、学生も負担することになります。トレーニングが満額負担となってしまうと、みんなに負担を掛けてしまうので、敷居がどんどん高くなってしまい門戸が狭くなってしまいます。

    その助成された分浮いてるお金ができるので、学生のために使ってあげることができるんですよ。 学生のために最新型の医療機器を購入することや、 他の機材をそろえることができるので、その助成があることは、非常にありがたいと思います。 少なからず、私たちがやろうとしてる生体を使った実習は、お金が掛かることは100も承知なんです。 例えば、1億円かけても、1億円以上の効果があったらやるべきだと思います。座学しか行わない学校だと学費が高いって思われるかもしれませんが、この学費なら安いという実習内容をつくれたら費用対効果だと思っています。 なおかつ、助成金があって安くなるという、こんなにありがたいことはありませんが、実習をやめるという選択肢はないので、もし助成金がなくなったとしても生徒に負担をさせることができないので、学校が負担してでも頑張るしかないですね。

  • Q9. 今後、センターに期待することはなんですか? ​

    センターには、たくさんの手術室やさまざまな試験設備がありますが、私たちが実施したいのは、内科的カテーテルや内視鏡などなので、センターの一部を選んで利用させていただいています。 医療には臨床工学技士だけではなく、たくさんの種類がたくさんあるので、まだいろいろな職種のシミュレーションを作ることができる施設だと思っています。

    センター:今日はお忙しい中ご協力ありがとうございました。

  • お客様インタビューご協力会社​

    学校法人 国際総合学園 i-medical 国際医療看護福祉大学校​

    住 所:〒963-8811
    福島県郡山市方八町2-4-19
    ホームページ:https://www.i-medical.jp/