圧倒的な設備で、他の試験機関と選択の余地がないレベル株式会社スパインテック 森田康平先生

第6回目の「利用者の声」は、2020年大学発のスタートアップ企業で、未だに実用化されていない技術であるカーボン繊維強化樹脂を使用した脊椎内固定器具を開発している株式会社スパインテックの森田康平先生です。

今回は、開発中のカーボン繊維強化樹脂の脊椎内固定具の特長や、今後の展望、センター利用の感想などについて伺いました。

  • Q1. センターで試験を依頼していただいた開発中の医療機器の特長を教えてください。

    今回依頼した医療機器は、変形性脊椎症やすべり症などの脊椎(背骨)の疾患治療を行う際に脊椎を適切な位置で保持するための脊椎内固定器具です。

    固定器具自体は、脊椎治療のゴールデンスタンダートとして昔から使用されている医療機器ですが、現在はチタン合金製しか存在しないため、脊椎外科医はチタン合金製を使用しなければなりません。
    実際に使用すると緩みやすい、放射線でアーチファクト(実際には存在しないノイズなど)が現れるなどの不具合が発生しています。また、サイズに関しても可能であればアジア人に合わせて小さく調整したいというニーズがあります。

    私が研修医であった時代から先生たちがチタン合金製器具について愚痴をこぼしているのを聞いていたので、なんとか解決できないかと長年思っていて、カーボン製に変更したらすべて解決できるのではないかと考えて開発を進めています。

  • Q2. チタン製ではないカーボン製を開発すれば解決するのではないかという発想は、先生以外にも思いついた人がいるかもしれませんが、今まで実用化に至っていません。その中で先生はどのようにして実用化に向けて開発を進めているのでしょうか?

    私は、今まで医療機器開発をしてきましたが、これはすごいアイデアだと思っても、大体は世界中の誰かが先に考えていることが多いです(笑)。カーボン製のアイデアは昔からありました。カーボン製強化樹脂自体が軽量で緩みにくい、振動吸収もするというのは1990年代から言われていました。

    では、なぜ実用化できなかったのかというと、大きい素材は基本的にカーボン製で製作できるが、ねじなどの小さいものは成型の問題でとても難しいです。1990年~2000年は日本がカーボン製品で世界のトップを走っていましたが、日本企業群がどう頑張っても結局は実用化ができませんでした。

    ところが私がアイデアを思い付いたのとほぼ同時に、特殊ねじのメーカーであるタカイコーポレーション(岐阜県)の技術者が、アイデア力とそれを成し遂げる努力によって、これまで実現できなかったカーボン製ねじを作ることに成功しました。そのニュースを見て、すぐさま連絡して一緒に開発することになりました。私が連絡した後には、いろいろな医療機器メーカーから問い合わせがあったようで、タイミング的に我々が先に声を掛けたことが幸運でした。本当にそういう幸運が重なって今回に至っています。

    現在、世界でカーボン製の脊椎固定ねじを作っているベンチャーが2社ほどありますが、強度面や精度面、特にねじれに弱いということが問題になっています。結局、現在使用されているチタン合金製と同じような使い方ができるまでには至っていません。

  • Q3. この強度や精度というところが製品化で一番苦労しているところですか?

    苦労したポイントは正直数えきれないくらいありました(笑)。

    まず1つ目のハードルは、パートナーを上手く見つけることでした。脊椎内固定器具のロッドは簡単に製作できるものではありません。脊椎用の器具は経4.5㎜しかないので、細くて強度を確保したロッドを作るのはかなり難しく、カーボン製釣り竿で世界最高の技術を有するグローブライド社がいたから可能だったと思います。

    2つ目のハードルは体制づくりが大変でした。我々は大学発ベンチャーであったので、上手くいくようにチームを作っていくのが大変でした。

    3つ目のハードルは資金の問題でした。2019年国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の医工連携イノベーション推進事業に採択されたことはすごく大きかったです。この事業に採択されていなかったら最初のプロトタイプを作ることができませんでした。

    4つ目のハードルは原材料です。残念ながら我々が作っているこのカーボン製の大半の材料は、日本製ではなくほとんど海外製です。

    海外メーカーは新しいことに本気で挑戦する会社が多いと感じました。新しいものに挑戦する企業はどこの国であろうと応援されています。一緒に共同研究もするし、別の医療機器で自分たちの材料を使用することがあったら、ぜひ協力させてほしいと言ってくるメーカーがほとんどだったと思います。断られたところは今のところはないですね。日本国内で協力してくれるところは少数だったので、その点は残念でした。

  • Q4. 今後、開発中の医療機器が上市したらどのような展開を望んでいますか?

    医療機器メーカーは最近M&Aでベンチャーのアイデアを買い取って大きくなっていくのがメジャーになってきています。ニューベイシブ(NUVA)、メドトロニックなどの大手企業が優れた医療機器製品を製作する世界各地のベンチャー企業を買収してラインナップに加えて広げるというエコシステムができてきました。いろいろな選択肢を考えていきたいとは思っていますが、私は医師なので患者さんに使用してもらうために現場で流通していくことが間違いなく最終地点と考えていますので、M&Aを目指すのが一番良いパターンだと思っています。

    医師が論文の執筆や研究結果だけで満足してしまい商業化、実用化しないことは絶対にやってはいけないと思っています。我々チームはふくしまのセンターを活用して、実用化、商業化、承認申請を見据えて上市まで進めていきたいと考えています。

    センター:目指している市場は世界ですね。

    そうですね。元々アジア人の体格が小さいので、アジア地域をターゲットとして、小さいサイズの器具を開発したいと考えていました。センターでおこなった試験では、カーボン製は抜けにくいと痛感した結果でした。抜けにくいのはアジア人に関係なく重要で有用な要素だと思ったので、グローバルな市場で展開したいと考えています。

    センター:以前先生から伺いましたが、ステンレス製からチタン製に短期間に置き換わったのを再現するという展望も持っていらっしゃいますよね。

    2000年前後にステレンス製が全部チタン製に置き換わった理由は、MRIで使用できるという事と、錆に難く生体安全性が高いということでしたが、金属である以上、抜けやすいという問題は変わらなかったと考えています。正直、今回チタン製からカーボン製に換わることによって性能の躍進の幅はもっと大きいと思います。場合によっては、世界の脊椎固定器具の素材を大きく変えることにもなりますし、コストもチタン製と同等なのでカーボン製がスタンダートになりうると思っています。

  • Q5. センターを利用しようと思ったきっかけは何ですか?

    非臨床試験を外注するにあたって、いくつか候補がありました。当時はAMED事業の受託期間中で、その委員の一人だったと思いますが、福島県に公的試験機関があってサポートも手厚いと聞いたのがきっかけです。その時点ではセンターはただの候補に過ぎませんでしたが、圧倒的な設備で、他の試験機関を選択する余地がないレベルでした。我々の試験に必要な大型動物でかつ治験可能な材料をそろえるとなると他にはありませんでした。

  • Q6. 大学発ベンチャーは資金面が一番苦労するという話をよく伺いますが、有望開発案件の補助金があったということはセンター利用の大きなきっかけになっていますか?

    おっしゃる通りで、大変ありがたいです。大学発ベンチャーは成功しているところは少ないと思います。理由は、研究者の集まりなので資金調達や事業立案に関しては難しいことが多いからです。通常のベンチャーでは、ハードルになりえない体制づくりもハードルになっていると思います。その状況下では事業計画すら立てることができないのに資金調達ができるわけがないと思います。科研費も事業化を見据えるものではないので、採択されたとしても数百万の少額なものが多いです。自分のアイデアを実現するためにお金がなくて、実現できないことがたくさんあるので、公的資金で補助していただけるのは本当にありがたいと思います。

  • Q7. 大学発ベンチャーの先生は研究者であって経営者ではないので、事業計画や資金調達はどうするかサポートできる人がいない場合、途中で頓挫してしまうという話を聞きます。先生は開発までどのように漕ぎつけたのでしょうか? ​​

    全く同じ質問をされたことがあります。ものすごく課題になっているみたいですね。結局技術者、研究者は経営のことを理解していくのは不可能に近いと感じています。私も他の大学発ベンチャーを見て思うのは、結局のところチームの中に経営のことも開発のこともできる人がいなかったら絶対に進まない。これは永遠の課題です。 大学発ベンチャーは、コンサルティング出身者やCEO経験がある人を呼ぶだけだったら、みんな実行していると思うし、呼んだからといって成功しているわけでもありません。
    なぜ我々が成功したかというと、なかなか難しいかもしれないが、私を含めて医師でありかつコンサルタントの経験がある両面を持った人がいたからです。チームの中には、アメリカで医療機器開発をおこない事業化までした人もいます。結局自分が開発だけ成功したからよい、論文を執筆したからよいではなく、株式のことや組織のことを分かった人がチームを引っ張らないと多分成功しないと思います。ただし私が発言したことがすべて答えになるとは限りませんが。

  • Q8. 実際にセンターを利用していかがでしたか? ​​

    正直予想以上に対応いただいたのでありがたかったです。特に現場の外科医が医療機器開発に関わる大型動物や薬剤を自分で手配して準備することは不可能だと本当に痛感しました。自分たちだけで試験をすることは絵空事でしかなかったので、すごく助かりました。

    ふくしまセンターの連携機関である株式会社化合物安全性研究所にも仲介してもらったが、そこでも一緒に考えて計画を組んでくれるのは大変ありがたかったです。正直センターと化合物安全性研究所の助けがなかったら、非臨床試験がスムーズに進まなかったと思います。コストは当初よりは若干高くなったが、それでも他に外注するよりは安かったです。

  • Q9. 今後のセンターへの期待はありますか? ​

    他に主導している医療機器に関しても、ふくしまのセンターで引き続き一緒にやっていきたいと思っています。
    今回の試験方法は初めてということで不具合もありましたが、そのことがあってもセンターを利用しないというのは違うと思っています。それを糧にしていただき経験を積んでいただければと思っています。

    センター:先生のご指導ご鞭撻をいただきながら、より良い方向に進んでいきたいと考えています。本日はありがとうございました。

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